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橋田壽賀子

橋田壽賀子 (95)

2021年 4月4日 ご逝去

1925年05月10日 生まれ

職業: 著作家 タレント 劇作家 脚本家 | 死因:悪性リンパ腫 | 女性

橋田壽賀子(はしだ すがこ)さんは、1925年5月10日生まれ、2021年4月4日に亡くなりました。享年95歳――その長い人生は、多くの日本人の心に強く刻まれる作品とともにありました。小説家、脚本家として数多くの賞を受け、文化勲章、菊池寛賞、文化功労者など名誉ある称号を得ています。中でも『おしん』と『渡る世間は鬼ばかり』は、日本のドラマ史における金字塔といえる作品です。

私自身、子どものころから家族と一緒に『渡る世間は鬼ばかり』を見ていました。毎週のようにテレビの前で登場人物たちのやり取りに一喜一憂し、昭和の家族のあり方や、日本人らしさのようなものに思いをめぐらせたものです。橋田さんの脚本が持つ温かみや、時に厳しさを伴うリアリズムは、視聴者である私自身にも深い影響を与えました。

橋田さんの功績を語るうえで忘れてはならないのが、1983年に放送されたNHK連続テレビ小説『おしん』です。おしんは明治末から昭和初期という激動の時代の中、厳しい貧しさや労働、家族との別れ、理不尽な試練に耐えながら成長していく一少女を描きました。社会の変化や家族の絆、特に母と娘の関係をこれほどまでに丁寧に、そして深く掘り下げた朝ドラは他にないと感じます。海外でも放映され、日本人の我慢強さ、努力、家族愛は世界中の視聴者に強い共感を呼びました。橋田さん自身も『おしん』のヒットで国内外から多くの評価を受けましたが、この作品を支えたのは、ご自身の生い立ちへの深い理解と、ひとりひとりの人間を見つめる誠実なまなざしだったと思います。

そして、1990年から始まった『渡る世間は鬼ばかり』。このドラマは家族同士での価値観のすれ違いや、時代の変化に一歩ずつむきあう姿を、時にユーモラスに、時に重くえぐるように描ききりました。登場人物は口喧嘩をしながらも、どこかで互いを思いやっています。私自身、大人になった今、当時は理解できなかった親世代の気持ちや、子どもの葛藤が、今では身につまされるように痛いほどわかります。視点が変わるたびに新たな発見がある――これは、橋田さんの脚本がいかに多面的か、いかに膨大な人間経験への洞察から生み出されたものかを感じさせます。

橋田壽賀子さんの生きた95年は、決して順風満帆なものではありませんでした。戦争体験、結婚や離婚、ご家族との別れ――多くの苦しみを経て、家族や人間のありようを作品へと昇華させました。インタビューで「人間は弱いもの、でも前を向いて生きてゆく」と語る姿が印象的でした。だからこそ、描く台詞にはしぶといリアリティと、ごく普通の人々への愛情がこもっています。

晩年は表舞台から少しずつ距離を置きつつも、多くの若いクリエイターたちにとって精神的な支柱であり続けました。それでも、新しい家族像や、人間関係の変化へ真摯に向き合う姿勢は変わらず、最後まで「自分の内臓からにじみ出るようなものを書きたい」とおっしゃっていたのが印象的です。

2021年4月4日、悪性リンパ腫で亡くなられましたが、橋田さんの残した物語と言葉は、今もテレビや再放送を通じて私たちに生きつづけています。その作品の一つひとつに宿る家族のさまざまなかたち――喧嘩もし、涙もし、許しあい、また明日へ向かい歩き出す、そんな生きる力を僕たちに教えてくれる存在でありました。

橋田壽賀子さん、心からの敬意と感謝を込めて、改めてご冥福をお祈りします。

命日から4年と59日が経過しています。

称号

代表作

画像出典: https://www.nhk.or.jp/archives/common/image/copy_guard.png